第一章-12、心霊写真(ADVマスト)

茜里「夕暮れ時にも関わらず……れいしろーは今日も遅いのう」

吹雪「流々ー」

流々「ん?」

吹雪「ちょっと調べてほしいことがあるんだけど」

流々「なに?」

吹雪「好きなアーティストのライブがあってさ」

流々「うんうん」

吹雪「あ!……ふふ」

流々「え?何で笑うの?」

吹雪「だって流々のタブレットの待受画面」

流々「……もぅ」

茜里「なんぞ!私にも見せてくれぬか!」

吹雪「ふふ、可愛いとこあるじゃん、流々」

茜里「お!もしやこれは!」

吹雪「うん、鬼火解決後に部室で撮った写真よ」

流々「……だって、もう辞めるって言うの辞めたし……それに」

流々の持つタブレットに映る待受は……

流々「私の今の居場所は……ここだから」

広い部室で、“礼士郎のみ”がピースを向ける写真だった。

吹雪「心霊写真……幽霊も映ればよかったのにね」

茜里「……そうじゃな。みなで写れればのう」

流々「……うん」

その一 「水底の”うそぼう”」 ランキング5位 除霊完了
その二 「くろうずの”サナコ”」
その三 「真っ赤なヒトガタ」
その四 「”メリー”の鏡かくれんぼ」
その五 「首無しだむだむ」
その六 「永眠(ららばい)」
その七 「????」

残り、6体

第二章へ続く

第一章-11、流々の過去(ADV 別途)

「いやああああああああ!!」

双子の姉の奈那が悲鳴。
私はイヤホンを装着し、タブレットを握る。

「ひ、ひ、ひいあああああ!!」

また奈那の悲鳴がリビングに響いた。
私は怒鳴る。

「うるさいなー!ゲーム聞こえないから静かにしてよ!」

「だ、だって……幽霊が!」

奈那の指はテレビへ。
いかにもな心霊写真に溜息を吐く。

「奈那さ。こんな作り物が怖いの?」

「はあ?あんたそんなこと言って霊に聞こえてたらどうするの?
ああ、幽霊様……愚かな妹をお許し下さい」

奈那は、昔から臆病なお人好し。
対照的に私は論理的。
幼い頃はそっくりの双子だったのに。時間がどんどん差を作った。

「バカみたい……幽霊なんているわけないじゃん」

大学入試が近づく。
私と奈那は行きたい大学が重なる。

しかし模試の結果は残酷だった。

「奈那、流々……模試の結果はどうだった?」

夕食時、お父さんに聞かれてしまう。

「私B判定だったよ!」

「そうか、奈那はあと一歩だな。油断しないように」

「はーい」

「流々、あなたも言いなさい」

シチューを運ぶお母さんにまで言われる。

「……」

「流々?怒らないから、言ってみなさい」

ゆっくり口を開く。

「……Eだった」

その言葉を発した途端、胸が苦しくなる。
家族の落胆が怖かった。

「そうか……まあそういうこともある。
落ち込まなくていい」

お父さんはそう言ってくれるが……

「あはは、私のBがたまたまだったのかなー」

辛かった。

「流々、志望校を落とす気はないの?」

お母さんの言葉に、攻撃的になってしまう。

「やだよ!この大学に行きたいの!」

「そうは言っても落ちてからじゃ遅いのよ」

「はあ!?
私はバカだから、レベルの低い大学行けってこと?
奈那と違って!」

「ちょ……流々、落ち着きなよ」

今ばかりは奈那の言葉が上からに聞こえた。

「うるさい!!
そもそも何で双子で学力も変わらないのに、あんたはBなのよ!」

「そ、それはたまたまだよ、きっと」

余裕ぶるな!

「さてはカンニングでもしたんじゃないの?」

「……は?」

「だってそうじゃない!そうじゃないとこんな結果おかしいよ!
双子なのに、こんな差があるなんて!あんたがずるしたから私は……」

パン!

私の頬に平手がふりおりた。

「流々!」

テーブルの上に倒れる。シチューが体に染み付いた。

「奈那の努力に何てことを言うんだ!!」

お父さんだった。

頬を押さえる手に涙がつたう。

「流々、奈那に謝りなさい」

お母さんにまで睨まれる。

「……うぅ」

認めたくなかった。自分の方が失敗作。突き放される方だということに。
惨めだった。家族全員が、自分を責める状況も。

「うぅ……うああああ!」

私はさらに反発してしまう。

シチューの皿を思いっきり振り回す。
食事が、辺りに飛び散った。

「うるさいうるさい!!」

「ちょ、あんた何してんのよ!」

シチューまみれになった奈那が、私の手の皿を取り上げる。
そのまま私を突きとばし、ドアに後頭部をぶつけた。

「あぅ!」

「流々、あんた!いい加減にしなさいよ!
私が勝った時だけ、不機嫌になるな!
そんなとこが……」

後頭部を押さえる。

「昔から、ずっと嫌いだった!!」

目をつぶる。ぼろぼろと涙がこぼれていく。

「流々!あんたなんか、死ね!」

浴びせられた言葉。私は自分と同じ顔の者を睨む。

「うるさい……
私だってあんたなんか嫌いだった……
この家族だって、嫌いだ!!
こんな家……出てってやる!!」

叫ぶ。
そして裸足のまま、家を飛び出した!

「流々!」

「流々、待ちなさい!」

後ろから聞こえてくる声に私は振り返らない。
私は全速力で走る。
涙はぼろぼろと後ろに流れていった。

「うっひぐうう」

「何であんたが泣いてるのよ、奈那」

「だっで……私、死ねなんて言っぢゃっだ」

「本心じゃないの、流々だってわかってるわよ。
……全く、可愛くないわねー流々も。
素直に奈那と同じ大学に行きたいって言えばいいのに
幼いころからお姉ちゃんとずっと一緒で、離れるのが寂しいだけのくせに」

「母さん……すまないが片付けをお願い出来るかな?」

「お父さん、どこいくの?」

「決まってる。流々を連れ戻してくる」

「あ、お父さん!私も行きたい!」

「奈那、父さんに任せなさい。
そのかわり、ちゃんと帰ってきたら仲直りだぞ」

「……うん」

「あと母さん、もうひとつ」

「はいはい」

「シチューを温めなおせるかな?
流々の好物だ。温かく迎えてあげよう」

「……わかったわ」

「はぁ……足痛い」

私は裸足のままとぼとぼ歩く。

「ここ、どこだろ」

適当に走ったせいで、いつもは来ない工場地帯に来てしまった。

道は暗く、私の心を投影しているようだった。

「どうしよ……もう家に帰れないのかな」

私の悪い癖だ。
嫌なことがあると何も考えず、逃げ出すところ。

行くあてなんてなく、こうなることはわかってるのに……

「お腹空いたなぁ……あ」

追い討つように、雨がふってきた。
すぐにどしゃぶりになる。

「帰りだいよぉ……」

ぷるぷると涙が雨に混ざる。

涙と雨を払いながら、曲がり角を曲がる。

キキキィーーー!!

雨の中、車のヘッドライトの光を浴びる。

眩しいと思うまもなく……

ドンッ!!

私の意識は途切れた。

「1123……1123……」

目を開く。自分の部屋の天井が見える。

「あれ?私、どうしたんだっけ?」

今呟いた数字1123って何?
記憶が変だ。上手く思い出せない。

「そ、そうだ……
私、模試の結果で家族と喧嘩して……」

そのあとどうなったんだっけ?

自分の部屋のドアを少し開く。廊下を覗く。

お父さんが歩いている。

「あ、お父さん……」

「母さん……おはよう」

通り過ぎる。ついでにドアを閉められた。

「……え?」

何、今の?
もしかして……

「まだ怒ってるの?」

ふるふると体が震える。

だからって、無視しなくていいじゃん!
私……今……謝ろうとしたのに!

「もう、いい!」

私はベッドに飛び込む。

「もういい!そっちがその気なら、こっちだって無視してやる!
ひきこもってやるからな!」

私はタブレットを握り、指でディスプレイをはじく。
泣きながら。

「……」

どれくらい経ったろうか?

1日じゃすまないはず。
何日か、何週間か、何ヶ月も経ったのかもしれない。

何かおかしい……
何が変かは上手く言えないが、何か忘れてる気がする。

ガラッ

ついに部屋の扉が開く。
誰か入ってきた。

「この部屋の物は持っていかなくていいんですよね?」

「……はい」

引越し業者と、お母さん。

「きっと、思い出すと思うので。
引越し時には持っていかないと決めました」

そのまま出て行く2人。

……?
引越しって何?

「私、何も聞いてない……」

部屋から恐る恐る出る。

「……え?」

広くなった家。物がほとんどなくなっている。
いや、引越し業者さんが運び出してしまったんだ!

「いやああああ!引越しなんてしたくない!」

家の外から、奈那の声。
私は外へ走る。

家の外には家族と、引越しのトラックがいた。

「うぐ……!」

何故かトラックを見て、頭がしめつけられるように痛くなる。

なに?……なんで?

「奈那、大人しくしなさい!
このままじゃあお前までダメになる!
お医者さんからも言われたろ!
一度、思い出から離れる必要があると!」

「ああ、ああああああ!!
私があの子に死ねって言ったから!
死ねって言ったから!死ねって言ったから!
死ねって言ったから!死ねって言ったからああああああ!!」

「母さん!奈那を車に乗せてくれ!」

「……ええ」

なにこれ……?

涙が熱い……

何で……どういうことなの……

「お、お父さん!」

叫ぶ。

「お母さん!お母さん!……な、奈那!!
ごめんなさい!
私が子供だったの!
私、本当は、あんなこと思ってない!」

叫び散らす!
そして家族へ歩み、手を伸ばす!

「だ、だから!
お願いだから、私を無視しないで!
もう!もう許し……」

私の手は……

「……て…………」

家族をすり抜けた。

「……え?」

震える両手を眺める。

「なにこれ」

まさか……

「ご家族のみなさん、じゃあ出発しますんでー」

「ああ、行こう。
……この家は奈那と流々が生まれた時に買った物だったな」

家を眺めるお父さん。
目の前に私がいるのに……

「流々よ……
天国で、私達家族を見守ってくれ」

「………………」

そう残し、家族は去った。
……私は、遠くなるトラックと家族を呆然と見続けた。

「………………」

………………。

とぼとぼ、家へ戻る。

玄関に残された鏡の前で、立ち止まる。

そこで、全てを察した。

「……あ、そっか」

何で今まで気付かなかったの?

‟何か忘れてる気がする”

「お腹空かなくなったし……トイレもいってないのに……」

“バカみたい……幽霊なんているわけないじゃん”

「私……死んじゃったんだ」

自分のいない鏡に、そう呟いた。

第一章-10、帰還(ADVマスト)

礼士郎「とにかくこれで七不思議をひとつ封印出来た」

吹雪「ったく、5位で苦戦しててこの先全部倒せるのか不安だわ」

茜里「よいではないか。今は束の間でも、めでたい戦勝を噛みしめようぞ」

流々「……」

礼士郎「そうだ、流々。
退部についてだが」

流々「……」

礼士郎「さっき助けてくれてありがたかったが、退部の話は別だ。
助けてくれはしたが、結局どうする?」

流々「……」

吹雪「……」

茜里「……」

礼士郎「……流々、どうする?」

流々「私、辞めるよ」

礼士郎「……そうか」

吹雪「……流々」

茜里「……」

流々「口癖のように辞めるって、言うことを」

礼士郎「……え?つまり?」

流々「これからもここにいさせてほしい」

吹雪「……ふ、やれやれ」

茜里「……うむ!」

流々「礼士郎……覚えてるよ。
私を誘ってくれた日のこと」

礼士郎「そうか」

流々「あんたが、誘ってくれなきゃ……
私は今もひきこもりのままだったと思うから」

ー「流々の過去」を入手したー

第一章-9、うそぼうの死(ADV 別途)

クラスメイトが死んだ。
最初はみんな驚いていた。泣いていた。
なのに何日か経てば、みんな笑顔に戻っていた。
最初からそんな子いなかったように……

嫌だ……
そんな風に死にたくない。

幼い頃に、いつか自分が死ぬことを知った時の恐怖心。
死んだらどうなるのかわからない怖さ。

僕が死ぬことは仕方ない。
仕方なくとも、せめてみんなが悲しんでくれるような人間になるんだ。

もっと昔。授業中、先生に当てられた。
自信満々に言った答えは、大きな間違いだった。

赤面する僕の周りで起きた爆笑の波。
全クラスメイトが、先生が僕に笑いを向けてくれている。

恥ずかしい……どうして今までそんな風に考えてたんだ。

これだ!
勉強も運動も得意じゃないなら、失敗でアピールすればいい!

これなら僕でも、みんなに必要としてもらえる!

プール授業。
僕は溺れたふりをしてみた!
みんな焦ったが、すぐに冗談だと打ち上げる。

笑いの波。
楽しい……
みんなが僕を必要としてくれている。

僕はどんどん溺れたふりが上手くなった。

しかし……

ある日の水泳の授業で……

急に足が動かなくなる。
つってしまった?そう思うのも束の間、すぐに沈み始める。

「ぶば!!た、たすけ!」

水を飲みながら、発した言葉に周りは……

「あはははは!!」

笑っていた。

「ち、ちが!うぶ!」

違うんだ!本当に足が動かないんだ!

「た、たす……」

「あははは!!」

水の中から見えるクラスメイトの笑い顔。
空気のあるところで、爆笑の波が起こっていた。

「がぼ……ごぼ」

苦しい……
息が出来ない!

視界がぼやけ、目が血走る。

苦しい!苦しい!苦しい!
肺に水が入り、内蔵が冷たくなる。

「……が」

苦しい……空気……
空気!……助けて……苦しい……

もがく手がどんどん弱くなる。

恐怖。
自分の死が見える恐怖心。
涙すら、苦しい水の中へ消えていく。

足だけじゃなく、腕が頭が……
動かなくなる。

血が巡ってないのか体が冷たくなる。
水のように、冷たい。

脳にまで、水が入ってくるような苦しみの中……

「あはは!あははは!!」

笑い声が聞こえた。

……

何で?

僕は……
死んだ時にみんなが悲しんでくれるような存在になりたくて……

ただそうなりたかっただけなのに……

「あははははははははははははははははははははははははははははは!!」

何で……
僕が苦しんで死ぬ中、みんな笑ってるの?

瞬きすら出来なくなった僕は、水底にゆらゆら横たわる。

もう苦しくなかった。
もう怖くなかった。

もう……何も感じなくなった。

暗い……

みんなどこ?

水の底は、冷たくて、誰もいない。

寂しい……

ずっとこのままなのかな。

最期に聞いた笑い声すら懐かしい。

「はは」

誰か……

1人は辛いよ……

ねえ、誰か……

一緒に、アそぼうヨ……

「あはは……はは」

僕は手のひら……
水底でゆらゆら、何かを探し漂っていた。

第一章-8、水底のうそぼう⑤(チップス)

礼士郎「くそ、やっぱり強いな」

茜里「もう少しなのだが」

ードローンの音ー

吹雪「ドローン?」

茜里「もしや」

ードローンの射撃音ー

うそぼう「あううううあ!」 //なくてもいい

流々「はあ、はあ」

茜里「流々!」

流々「あの、水しぶきが見えたから……」

礼士郎「戦えるか?」

流々「……うん!」

ー流々加入ー

第一章-7、水底のうそぼう④(ADVマスト)

礼士郎「プールに着いたな」

吹雪「気をひきしないとね」

茜里「む?」

礼士郎「何だ、茜里?」

茜里「水面に誰かおるぞよ」

吹雪「うそぼうじゃないの?……え?」

ばしゃばしゃと水しぶきをあげている何かは……

礼士郎「は?……流々?!」

流々「あ、ぶあ、た、たすけ」

礼士郎「流々!」

茜里「……」

礼士郎「流々!」

俺は駆け出す。
仲間の危機に!

吹雪「ま、待って橘!」

礼士郎「流々、今助けるぞ!」

飛びこむ。深夜の黒いプールは予想以上に冷たかったが、関係ない。

仲間を助ける!

流々「ぶは……うぅ」

礼士郎「流々!」

目の前で沈んでいく流々。
俺も、追いかけるように潜る。

そこで……

流々「あは、あはははははははははは」

血走る目。上がる口角。

礼士郎「……!!」

流々……じゃない!

体を掴まれる。冷たく重い力だった。

???「あははははははははー」

茜里「吹雪!結界で橋を!」

吹雪「ええ!」

水面に結界の橋。茜里がその上を走る。礼士郎の元へ。

茜里「ぬん!!」

水面に木刀をふる!

爆発のような水しぶき。刹那、空中で止まり、雨に変わる。

茜里「れいしろー!」

茜里の手。

礼士郎「あ、茜里!」

俺はそれを掴む。

茜里「おおおおおおお!!」

茜里に引き上げられる。
”奴”の冷たい手が抜けた。

礼士郎「あかり……ありが」

茜里「一度ひくぞ!」

茜里が俺を抱えてジャンプする。

プールのサイドに着地した。

吹雪「ぶ、無事?」

礼士郎「ああ、茜里……相変わらず化け物並みの身体能力だな。助かった」

茜里「何を言う。よく見ろ。
……化け物は奴の方よ」

水面から顔を出す水泳帽の少年の顔。
血走った目。

うそぼう「ぶはははははははははー!!」

恩年高校七不思議その一 水底の”うそぼう”
七不思議ランキング5位 推定犠牲者、4人。

吹雪「不用意に飛びこまないでよ」

礼士郎「ああ、すまん。まさか人に化けられるとは……」

茜里「ゆえに、嘘坊か」

うそぼう「あ、あ、あそぼー、あそぼー」

礼士郎「……ああ、いくぞ。2人とも」

吹雪「うん」

茜里「応!」

vsうそぼう

第一章-6、水底のうそぼう③(ADVマスト)

校門の前。私は礼士郎に誘われた時のことを思い出す。

流々「……」

”お前の過去なんて関係ない。大切なのは能力だ”

流々「……」

”心霊戦隊部には、お前が必要だ。力をかしてくれ”

流々「……」

私は、なんでいつも失敗しちゃうのかな……

流々「逃げることは駄目なことじゃない……」

礼士郎はそう言ってくれたけど……

流々「”逃げた先”で続けれられないことは問題だよね」

―不気味な音楽―

???「あうー、あはははは」

第一章-5、水底のうそぼう②(ADVマスト)

茜里「敵陣の本丸まであと少しよ」

礼士郎「流々!なんか前より敵が強くなってないか?」

流々「た、多分……七不思議の周りには強い霊が……吸い寄せられるの……かも」

吹雪「流々……大丈夫?」

流々「はあ、はあ……」

礼士郎「流々、どうした?顔が青いぞ」

茜里「汗も、尋常ではないな」

吹雪「……流々?」

礼士郎「流々、どうした?」

流々「……あの」

吹雪「……」

流々「帰りたい」

礼士郎「は?」

吹雪「どうしたの流々?」

礼士郎「……冗談じゃないんだな?」

流々「……」

礼士郎「流々?」

流々「……こわい」

礼士郎「へ?」

流々「こわいの……
汗が止まらない。
足の震えがどんどんひどくなる」

礼士郎「流々……」

茜里「……そうだろうな。
ここから先、空気がどんどん冷たくなっておる」

吹雪「……さすが“状態5”の幽霊ね」

礼士郎「流々……」

流々「覚悟が足りなかったのかも……
ごめん、やっぱり……」

礼士郎「……」

流々「この部活、私には厳しいのかも」

礼士郎「……わかった。いい」

茜里「よいのか?お主、抜けてどうす……」

礼士郎「茜里!黙ってろ」

茜里「む……すまぬ」

礼士郎「流々、俺がお前を誘った時、覚えてるか?」

流々「……うん」

礼士郎「逃げることは駄目なことじゃない。
……お前の人生。お前の自由だ。
退部は許可するよ。
外で待ってろ。今後のことは終わってから話そう」

流々「……」

―流々離脱―

第一章-4、水底のうそぼう(ADVマスト)

放課後。俺は教室の花瓶の水を入れ替える。

礼士郎「あー、また部活遅刻だな」

今日は花当番の日だからだ。
早く部活に行きたいが、サボることはありえなかった。

礼士郎「これでよし」

花瓶の水を入れ替え、菊の花を綺麗に整える。
そしてある席の上に置く。

礼士郎「……」

目を閉じ手を合わせる。

吹雪「暗くなってきたね」

吹雪「?……流々、何してんの?」

流々「ん?あいつ遅いから、壊れたドローン修理してるの」

吹雪「ドローンって、屋上で破壊した?」

流々「うん。可哀相だから、連れてきちゃった」

吹雪「捨て猫か!動くの?」

流々「うん、多分ね」

茜里「吹雪……少しよいかの?」

吹雪「どうしたの?茜里ちゃん」

茜里「スマホが、動画を写さなくなってしまったのじゃ」

吹雪「どれどれ?」

茜里「からくりが外れたかの?」

吹雪「あー多分、これ速度制限ね」

茜里「速度制限?……病の類か?」

吹雪「動画の見すぎよ。ちょっと控えないとね」

茜里「むう……」

ガラッ

礼士郎「わりい!遅くなった!」

吹雪「遅い!」

流々「次遅れたら、辞めるぞー」

茜里「れいしろー、速度制限を退治してくれぬか!」

礼士郎「もう騒がしいな!今日は花当番って昨日言ったじゃねえか」

吹雪「あ、そうだったね。ご苦労様」

礼士郎「こんなんで、今夜大丈夫か?
次は七不思議の1体と接触する予定なんだぞ」

茜里「む、そうなのか?どの敵と相対すると?」

礼士郎「前から言ってたろ!」

流々「とりあえず”水底のうそぼう”からね」

茜里「水底のうそぼう?」

流々「うん、七不思議ランキング5位の幽霊」

七不思議ランキングとは、七不思議を
”遭遇率 × 対峙生存率 × 実際の犠牲者数”
で計算した指標。ようは危険な幽霊ほどランキングは高い。
情報屋の流々が作成した。

吹雪「5位か……まあ下位ってことね」

茜里「初陣ゆえ、それくらいがよかろう」

流々「出る場所はプール。0時以降に現れる」

吹雪「どんな幽霊だっけ?」

流々「水泳の授業中に、生徒の足をひっぱる奴。水泳帽を被った少年の幽霊で、血走る目で不気味に笑う顔が特徴的。
水底を確認しようと水中に潜った瞬間に目の前に現れて、水の底にひきずりこまれるって噂」

礼士郎「水泳部で、すでに犠牲者が出ている」

流々「0時にプールにいくと、誰かが溺れているの。
絶対に飛びこんで助けに行っては駄目。水の底にひきずりこまれて二度と浮かんでこれないから」

吹雪「……こわ」

茜里「しかしそやつで5位か。
……まあ勝てる敵から、攻めるのが定石か」

吹雪「部活立ち上げ当初、いきなり調子に乗って嫌な思いしたことあるからね」

茜里「そうなのか」

吹雪「ね、橘」

礼士郎「……ああ」

流々「0時まで待つ感じ?」

礼士郎「ああ、0時前までこの部室に隠れて、その後出撃でいこう」

茜里「御意」

吹雪「了解」

流々「ブラック部活、反対」

第一章-3、鬼火の正体(ADVマスト)

茜里「とう!……鬼火、破れたり」

礼士郎「ん?何だこれ?」

そこには何かの燃えカスと……壊れたドローンが一機。

流々「鬼火の正体、ね。
ドローンにくくりつけて飛ばしてたってことか」

吹雪「ん?でも炎の色は青だったよ?何で?」

流々「炎色反応よ。燃やす物によって炎の色は変わる。
青い炎を作るには……」

流々がタブレットをいじる。

流々「うん……銅かガリウムでも燃やしてたのよ」

茜里「えんしょく?がりうむ?」

流々「幽霊なんかじゃない。
きっと犯人は……化学物質があって、屋上が見渡せる……あそこかな」

流々が指さす4階の教室。
俺は走り出していた。

吹雪「あ、こら!橘」

ーー暗転ーー

理科準備室の扉を勢いよく開く。

「くっ」

そこには、コントローラーを持った……

松浦「何であんたらがここに?」

女子委員長の姿があった。

礼士郎「松浦……」

屋上の開放をとりやめるべきと言ったあの子だ。

茜里「何奴?」

吹雪「……脇には銅の瓶。確定的ね」

流々「あーこいつだったんだ。どうする礼士郎?ネットに晒してやる?」

ふう、と一息を吐く。

礼士郎「松浦……お前ほどの優等生がまさか居残り授業か?」

松浦「……私のドローンを壊したのあんた?ちっ、高かったのに」

礼士郎「何でこんなことをした?」

松浦「……」

流々「黙っちゃった。もう誤魔化せないと思うけど」

吹雪「流々」

流々「ん?」

吹雪「黙ってなさい。橘に任せればいいわ」

流々「……はーい」

茜里「ああ、れいしろー珍しく……憤っておるのう」

礼士郎「おい、答えろよ」

松浦「ふ……そ、そんなの決まってるでしょ!」

礼士郎「なんだ?」

松浦「ユウシくんの告白を中止させるためよ!」

礼士郎「え?」

松浦「……ちっ」

礼士郎「どういう意味だ?」

松浦「偉そうに問い詰めないでよ。
あんたにわかるわけないでしょうね!私みたいながり勉に……」

吹雪「……」

松浦「いつも挨拶してくれる男子を!
い、意識して何が悪いの!」

流々「……」

松浦「初恋だった……
ユウシくんの笑顔で始まる学校が楽しくなったのに……」

茜里「……」

松浦「わかるわけない!
その人に、好きな人がいるってわかった時の息苦しさなんて!!」

礼士郎「……」

松浦「はは……何も言えないよね?
確かに私はネクラの勉強オタクよ。
でもあんたみたいなおかしな部活やってる奴には理解出来ないでしょ?
あんた、独り言多くてきもいって、女子に言われてるの知ってのかな?あはは」

茜里「おぬし……開き直るか」

腕を伸ばし茜里を静止させる。

礼士郎「そうだな。まあ確かにわかんねえよ……
その立場に立ってねえからな。
ただな……」

松浦「……」

礼士郎「霊感もない奴が、幽霊を使うな」

松浦「……は?」

礼士郎「幽霊はお前の失恋の道具なんかじゃねえ」

松浦「は?じゃあ、幽霊なんて何のために存在するのよ?」

礼士郎「……」

松浦「幽霊こそ、未練たらたらの居残りの落ちこぼれじゃん……
疎まれ、避けられる命の残りカス。他にどう使い道があるのよ?」

俺はこぶしを握り、松浦へ歩み寄る。

松浦「え?……なに?」

目の前に立つ。
こぶしに力をこめる。

礼士郎「昔……女の子の幽霊に会った」

松浦「……は?」

礼士郎「その子は、自分が死んだことに気づいていない植物や虫の幽霊と違って……感情があった」

松浦「……」

礼士郎「もちろん怖かったさ。不気味な見た目で、話すことも出来ず自分の名前すら覚えていない幽霊だったからな」

吹雪「……」

礼士郎「恐怖の対義語って知ってるか?」

流々「……」

礼士郎「国語辞典にはそんなものは存在しない。
でも俺はそうは思わない。恐怖の対義語は……」

茜里「……」

礼士郎「‟理解”だ」

松浦「りかい?」

礼士郎「ああ、人間の幽霊は1人残らず孤独に苦しんでいるんだ。
人間には見えない・話せない・気づいてもらえない・恐れられ、問答無用で逃げられるから」

松浦「……」

礼士郎「そんな幽霊の苦しみを理解して、ちゃんと死なせてやりたいんだよ。
生から死は一方通行。取り残された魂を苦しませないために俺は幽霊を殺してあげたいんだ」

松浦「や、やっぱあんた変人だよ」

礼士郎「変人上等。普通の人間じゃ幽霊と関われないからな。
ただ、変人でもお前のことは理解してやれる」

松浦「理解?」

礼士郎「ああ、松浦。お前大した奴だよ。
夜の学校に忍びこめる勇気。ドローンの操縦に鬼火の発想力……全ては、ひとつの一途な気持ちのために」

松浦「……え」

礼士郎「きみほどの人間が正しく恋愛すれば、きっと好きな人に振り向いてもらえる。
そうじゃなくとも、好きだという奴がきっと現れるさ」

松浦「橘……」

礼士郎「だから、帰ろう。送って帰るよ。
……あぶねえぞ、こんな夜中に学校来たら」

固い拳を開き、松浦へ差し出す。

吹雪「ふん、かっこつけちゃって」

流々「……殴ればよかったのに」

茜里「ふふ、いやいや私はかっこいいと思うぞ」

ー暗転ー

次の日。部室。

礼士郎「よし、では部活を始める!」

茜里「れいしろー!広告が多すぎぬかのう?
私は、広告は観たくないのじゃが」

礼士郎「部活中に動画を観るな!」

流々「みんなー、はいチーズ!」

吹雪「はーい」

茜里「お、ピースじゃ!」

礼士郎「あの、流々さん。
インカメで集合写真撮らないで」

流々「あんたもちゃっかりピースしてんじゃん、きも」

礼士郎「……きもいは、ちゃんと傷つくからやめてくれ」

吹雪「心霊写真でも撮れた?」

流々「んー全く。何も写ってない」

礼士郎「なあ、本題に入っていいか?お前ら」

茜里「無論!よいぞ!」

礼士郎「えー……みんなの活躍のおかげで、鬼火の正体は七不思議ではないとわかった」

吹雪「無駄足だったね」

茜里「まあ、よいではないか!これはこれで一件落着!」

この学校は、事故や行方不明・自殺が多い。

流々「本物の七不思議があんなにぬるいわけないもん」

礼士郎「ああ、流々の言う通りだ。本物の七不思議達は……」

当部調査の結果……

礼士郎「人間を殺せるレベルだということを忘れるな」

“恩年高校の七不思議”

事故死・自殺・行方不明者……

推定犠牲者数42人。

その一 「水底の”うそぼう”」

その二 「くろうずの”サナコ”」

その三 「真っ赤なヒトガタ」

その四 「”メリー”の鏡かくれんぼ」

その五 「首無しだむだむ」

その六 「永眠(ららばい)」

そして、誰も知らない七つ目

そう、幽霊は人間を超越した存在なのだから。