第一章-3、鬼火の正体(ADVマスト)

茜里「とう!……鬼火、破れたり」

礼士郎「ん?何だこれ?」

そこには何かの燃えカスと……壊れたドローンが一機。

流々「鬼火の正体、ね。
ドローンにくくりつけて飛ばしてたってことか」

吹雪「ん?でも炎の色は青だったよ?何で?」

流々「炎色反応よ。燃やす物によって炎の色は変わる。
青い炎を作るには……」

流々がタブレットをいじる。

流々「うん……銅かガリウムでも燃やしてたのよ」

茜里「えんしょく?がりうむ?」

流々「幽霊なんかじゃない。
きっと犯人は……化学物質があって、屋上が見渡せる……あそこかな」

流々が指さす4階の教室。
俺は走り出していた。

吹雪「あ、こら!橘」

ーー暗転ーー

理科準備室の扉を勢いよく開く。

「くっ」

そこには、コントローラーを持った……

松浦「何であんたらがここに?」

女子委員長の姿があった。

礼士郎「松浦……」

屋上の開放をとりやめるべきと言ったあの子だ。

茜里「何奴?」

吹雪「……脇には銅の瓶。確定的ね」

流々「あーこいつだったんだ。どうする礼士郎?ネットに晒してやる?」

ふう、と一息を吐く。

礼士郎「松浦……お前ほどの優等生がまさか居残り授業か?」

松浦「……私のドローンを壊したのあんた?ちっ、高かったのに」

礼士郎「何でこんなことをした?」

松浦「……」

流々「黙っちゃった。もう誤魔化せないと思うけど」

吹雪「流々」

流々「ん?」

吹雪「黙ってなさい。橘に任せればいいわ」

流々「……はーい」

茜里「ああ、れいしろー珍しく……憤っておるのう」

礼士郎「おい、答えろよ」

松浦「ふ……そ、そんなの決まってるでしょ!」

礼士郎「なんだ?」

松浦「ユウシくんの告白を中止させるためよ!」

礼士郎「え?」

松浦「……ちっ」

礼士郎「どういう意味だ?」

松浦「偉そうに問い詰めないでよ。
あんたにわかるわけないでしょうね!私みたいながり勉に……」

吹雪「……」

松浦「いつも挨拶してくれる男子を!
い、意識して何が悪いの!」

流々「……」

松浦「初恋だった……
ユウシくんの笑顔で始まる学校が楽しくなったのに……」

茜里「……」

松浦「わかるわけない!
その人に、好きな人がいるってわかった時の息苦しさなんて!!」

礼士郎「……」

松浦「はは……何も言えないよね?
確かに私はネクラの勉強オタクよ。
でもあんたみたいなおかしな部活やってる奴には理解出来ないでしょ?
あんた、独り言多くてきもいって、女子に言われてるの知ってのかな?あはは」

茜里「おぬし……開き直るか」

腕を伸ばし茜里を静止させる。

礼士郎「そうだな。まあ確かにわかんねえよ……
その立場に立ってねえからな。
ただな……」

松浦「……」

礼士郎「霊感もない奴が、幽霊を使うな」

松浦「……は?」

礼士郎「幽霊はお前の失恋の道具なんかじゃねえ」

松浦「は?じゃあ、幽霊なんて何のために存在するのよ?」

礼士郎「……」

松浦「幽霊こそ、未練たらたらの居残りの落ちこぼれじゃん……
疎まれ、避けられる命の残りカス。他にどう使い道があるのよ?」

俺はこぶしを握り、松浦へ歩み寄る。

松浦「え?……なに?」

目の前に立つ。
こぶしに力をこめる。

礼士郎「昔……女の子の幽霊に会った」

松浦「……は?」

礼士郎「その子は、自分が死んだことに気づいていない植物や虫の幽霊と違って……感情があった」

松浦「……」

礼士郎「もちろん怖かったさ。不気味な見た目で、話すことも出来ず自分の名前すら覚えていない幽霊だったからな」

吹雪「……」

礼士郎「恐怖の対義語って知ってるか?」

流々「……」

礼士郎「国語辞典にはそんなものは存在しない。
でも俺はそうは思わない。恐怖の対義語は……」

茜里「……」

礼士郎「‟理解”だ」

松浦「りかい?」

礼士郎「ああ、人間の幽霊は1人残らず孤独に苦しんでいるんだ。
人間には見えない・話せない・気づいてもらえない・恐れられ、問答無用で逃げられるから」

松浦「……」

礼士郎「そんな幽霊の苦しみを理解して、ちゃんと死なせてやりたいんだよ。
生から死は一方通行。取り残された魂を苦しませないために俺は幽霊を殺してあげたいんだ」

松浦「や、やっぱあんた変人だよ」

礼士郎「変人上等。普通の人間じゃ幽霊と関われないからな。
ただ、変人でもお前のことは理解してやれる」

松浦「理解?」

礼士郎「ああ、松浦。お前大した奴だよ。
夜の学校に忍びこめる勇気。ドローンの操縦に鬼火の発想力……全ては、ひとつの一途な気持ちのために」

松浦「……え」

礼士郎「きみほどの人間が正しく恋愛すれば、きっと好きな人に振り向いてもらえる。
そうじゃなくとも、好きだという奴がきっと現れるさ」

松浦「橘……」

礼士郎「だから、帰ろう。送って帰るよ。
……あぶねえぞ、こんな夜中に学校来たら」

固い拳を開き、松浦へ差し出す。

吹雪「ふん、かっこつけちゃって」

流々「……殴ればよかったのに」

茜里「ふふ、いやいや私はかっこいいと思うぞ」

ー暗転ー

次の日。部室。

礼士郎「よし、では部活を始める!」

茜里「れいしろー!広告が多すぎぬかのう?
私は、広告は観たくないのじゃが」

礼士郎「部活中に動画を観るな!」

流々「みんなー、はいチーズ!」

吹雪「はーい」

茜里「お、ピースじゃ!」

礼士郎「あの、流々さん。
インカメで集合写真撮らないで」

流々「あんたもちゃっかりピースしてんじゃん、きも」

礼士郎「……きもいは、ちゃんと傷つくからやめてくれ」

吹雪「心霊写真でも撮れた?」

流々「んー全く。何も写ってない」

礼士郎「なあ、本題に入っていいか?お前ら」

茜里「無論!よいぞ!」

礼士郎「えー……みんなの活躍のおかげで、鬼火の正体は七不思議ではないとわかった」

吹雪「無駄足だったね」

茜里「まあ、よいではないか!これはこれで一件落着!」

この学校は、事故や行方不明・自殺が多い。

流々「本物の七不思議があんなにぬるいわけないもん」

礼士郎「ああ、流々の言う通りだ。本物の七不思議達は……」

当部調査の結果……

礼士郎「人間を殺せるレベルだということを忘れるな」

“恩年高校の七不思議”

事故死・自殺・行方不明者……

推定犠牲者数42人。

その一 「水底の”うそぼう”」

その二 「くろうずの”サナコ”」

その三 「真っ赤なヒトガタ」

その四 「”メリー”の鏡かくれんぼ」

その五 「首無しだむだむ」

その六 「永眠(ららばい)」

そして、誰も知らない七つ目

そう、幽霊は人間を超越した存在なのだから。